無農薬による害虫対策とは?自然栽培における害虫対策について解説

日本の農業生産者は、良質な農作物を生産するための手段として、農薬や化学肥料を用いた慣行栽培を主流としています。

その中でも、農薬による病害虫対策は、農作物の価値を最大限に向上させるものとして、農業者が行う作業の中でも特に重要な仕事とされています。

しかし最近では、自然農法や有機栽培など、自然の力を利用した栽培方法にチャレンジする農家さんも多く、無農薬栽培における害虫対策への注目が高まっていいるようです。

この記事では、無農薬による害虫対策についての概要を解説しながら、自然栽培における害虫対策を紹介していきたいと思います。

農業における害虫とは?

農業における害虫とは、農作物に寄生して生育への阻害や食害をもたらす虫のことを指します。

農作物の害虫には、稲作、野菜、果樹それぞれに被害を及ぼす種類もいれば、農作物全体に被害を及ぼす種類もいます。

害虫の種類

稲作

稲の害虫には、以下のような種類がいます。

1.ニカメイガ・アワヨトウ類

ガの幼虫の仲間で、イネの葉や茎を食べます。

2.ミドリカスミカメ・オオトゲシラホソカメムシ・アカヒゲホソ類

カメムシの仲間で、稲の穂の汁をエサとして吸います。斑点米(質の悪いお米)の原因とされています。

3.イネクビホソハムシ類

ハムシの仲間で、稲の葉を食べます。

4.イネミズゾウムシ類

ゾウムシの仲間で、幼虫は土の中で稲の根を食べ、成虫は地上で葉を食べます。

5.コバネイナゴ類

バッタの仲間で、成虫が稲の葉を食べます。

6.セジロウンカ・トビイロウンカ・ツマグロヨコバイ類

ウンカ類・ヨコバイの仲間で稲の葉や茎から汁を吸い病気を広めます。

野菜

野菜の害虫として知られる虫は、以下の通りです。

1.アブラムシ類

多くの野菜作物に被害をもたらす害虫です。植物の新芽やつぼみに寄生して植物の汁をエサに生育を阻害します。発生時期は3~11月です。

2.ヨトウムシ類

ヨトウガ、シロイチモジヨトウ、ハンスモンヨトウを主な種類とする害虫です。
昼は地中に潜み、夜になると地中から出てきて植物の葉や実を食べます。発生時期は4~11月です。

3.アザミウマ類

寄生した場所により被害が異なる害虫です。葉に寄生すると、葉が色あせて白い斑点が生じます。褐変や奇形葉、縮れ葉の原因とされています。発生時期は4~10月です。

4.オンブバッタ

葉野菜を中心とする作物に被害をもたらす害虫です。特に秋植えの野菜の苗などは、幼苗時期がオンブバッタ成虫の発生の最盛期に当たるため、駆除せずに放っておくと苗が数日で全滅してしまうことがあるようです。発生時期5~10月 です。

5.コガネムシ類

植物の葉をエサとする害虫です。
大量発生すると葉がレース状になるまで食べられてしまう恐れがあります。。幼虫による被害はさらに甚大で植物の根そのものを食べてしまうようです。発生時期7~10月です。

6.コナジラミ類

カメムシ目に属す昆虫の一種です。幼虫による吸汁等は植物の生育を阻害します。また、排泄物によって発生する「すす病」は、葉の汚れや同化作用の阻害をもたらすとされています。

7.ネキリムシ(根切り虫)類

芽生えて間もない苗の茎をエサとする害虫です。カブラヤガ、タマナヤガなど茎を食するヤガ類の幼虫の総称を指します。

8.センチュウ類

線形動物の総称で、細長い糸状の見た目をしています。ネコブセンチュウやネグサレセンチュウなど多くの種類が確認されており、寄生すると植物の根にコブができたり、根腐れを起こしたりします。

果樹

リンゴやモモなどの果樹類は、害虫による被害が最も多く、また収量への影響も大きいことで知られています。主な害虫は以下の通りです。

1.カイガラムシ類

樹木や果樹に寄生する害虫です。吸汁することで、樹木および果実の生育を阻害させるほか、葉枯れや枝枯れを招くとされています。

2.ハマキムシ類

葉やつぼみ、芽、果実をエサとする害虫です。丸めた葉の中に潜み、症状の初期段階では葉の表面がところどころ白く透けた状態になります。被害が大きくなると、果実の表面にも食害が進みます。

3.カメムシ類

主な加害種は、チャバネアオカメムシ、ツヤアオカメムシ、クサギカメムシの3種です。4月~10月頃にかけて飛来して樹木に生る果実等を吸汁します。果実の変形や落果、果実腐敗などの被害を招くとされています。

4.ハモグリガ類

成虫の体長は2mm程度で模様を画くように食害からエカキムシとも呼ばれます。みかんなど柑橘類への被害が多く、春から秋にかけて数回発生(3~11月)するといわれています。

5.カミキリムシ類

果樹の枝や幹の中を食害する害虫です。被害を受けると樹勢が著しく衰えるほか、枝が枯れたり、樹そのものが枯れたりします。テッポウムシと呼ばれることもあります。

慣行栽培における害虫対策

慣行栽培とは、現代において普通・一般的に行われる栽培方法のことで、農薬や化学肥料、農業機械などを用いた農業のことを指します。

農林水産省は、慣行的に使用されている農薬や肥料について、農薬の使用時期や回数、化学肥料に含まれる窒素成分等の量など、基準となる指標(地域慣行栽培基準)を地域ごとに定めています。

農薬による害虫駆除

農薬による害虫対策は、慣行栽培による農作物の栽培において、普通・一般的に行われている害虫の駆除方法です。

殺虫を用途とする農薬の容器や袋には、対象となる害虫が作物別に記載されています。

自然栽培とは

自然栽培とは、農薬や化学肥料に頼らず自然の力のみを利用して行う農業のことを指します。

自然栽培の正しい解釈は、「農薬や化学肥料、糞などの有機物等を一切使用せず、落ち葉など自然界にある現象と仕組みを利用する」としています。

しかし、現代農業においては、自然の力のみで農作物を生産することは難しく、市販品の農具や機械を活用した自然栽培が一般的なようです。

無農薬での害虫対策を考える

自然栽培では、農薬以外の方法で害虫の対策を考える必要があります。全国の生産地で行われている主な対策方法は下記の通りです。

害虫被害を防ぐ圃場の環境づくり

農薬を使用しない自然栽培では、「害虫被害を防ぐ環境づくり」が大切とされています。

稲作の自然栽培では、害虫の侵入を防ぐため、周辺の畔や農道にある程残の雑草を残して、意図的に「田んぼ以外の場所に害虫が生息しやすい環境をつくる」農家さんもいるようです。

農薬以外の市販品を用いた害虫対策

市販されている農業資材用品を使用するのも方法のひとつです。野菜のトンネル栽培などでは、防虫用のネットやシートを使用した害虫対策が行われています。

また、酢酸やアルコールが含まれるという木酢液は、殺虫や菌の増殖を抑える効果があるとして知られています。

身近なものを活用した害虫対策

「紙」は害虫の習性を利用した対策法です。アブラナ科の作物に寄生するヨトウムシは、紙の下に集まる習性があるそうです。畑の通路に紙を置くのみで対策を講じることができます。

アルミシート

小松菜などに寄生するナモグリバエ等の対策に使用できるのが「アルミシート」です。光に弱いという特性を持つナモグリバエは、反射される光を嫌う傾向にああるようです。アブラムシやウリハムシにも効果があるようです。

粘着テープ

害虫のトラップ(罠)として使用できるのが「粘着テープ」です。サランラップ等の芯に粘着テープをらせん状に巻きつけて使用します。レタスや小松菜などの畔際に設置してナモグリバエ等を捕獲します。

益虫を利用した害虫対策

自然界には、農作物の害虫をエサとして捕食する益虫とよばれる虫も存在します。野菜の害虫を捕食する益虫は下記の通りです。

1.キクヅキコモリグモ、ハシリグモ、ハエトリグモ            

クモの仲間で、自分より小さい虫を食べます。

2.アキアカネ・ナツアカネ                       

トンボの仲間で、飛んでいる虫を食べます。

3.トビイロカマバチ・キアシカマバチ                  

カマバチの仲間で、ウンカやガの幼虫に卵を産み付け寄生します。

4.寄生蜂・アメンボ・カマキリ・アマガエル等              

ウンカやガの幼虫に卵を産み付け寄生します。

害虫の天敵とされるこれらの虫が生息しやすい環境をあえてつくることも、自然栽培における害虫対策と言えるでしょう。

まとめ

無農薬による農作物は、自然栽培や有機栽培等への関心の高まりから、一般的な認知も広く、消費者からのニーズも高いと聞きます。

また、自然栽培で生産された農作物は、慣行栽培を主流とする現代農業において、新たな付加価値となる大きな可能性を秘めています。

自然栽培にチャレンジする際には、ぜひこの記事を参考にしてみてください。最後まで読んで下さりありがとうございました。