はざかけ風景

現代農業は、収量の確保や病害虫の予防など農作物の安定生産を目的に、農薬や化学肥料を用いた慣行栽培が行われています。

しかし最近では、枯れ草や蓑(わら)などを発酵させ堆肥として土壌に還元する「自然農法」という栽培方法とる農家さんも増えてきているようです。

この記事では、「自然農法」の概要と日本の文化ともいうべき「稲作」における「自然農法の活用」について解説していきます。

自然農法とは?

自然農法とは、造園家や書家、画家、歌人など様々な顔を持つ岡田茂吉氏(1882~1955)が提唱した農作物の栽培方法です。

岡田氏の考え方によれば、自然農法とは「落ち葉など自然界にある現象と仕組みを再現して行う農法」で、農薬や化学肥料、糞などの有機物等を一切使用しないのが特徴です。

自然農法は、岡田氏の提唱以降も様々な人物によって検証がなされ、埼玉県三富地域で行われる「武蔵野落ち葉堆肥農法」については、農林水産省が重要かつ伝統的な農林水産業を営む地域を認定する「日本農業遺産」の一つとして、現在も尚、地域に根差した育みが行われています。

現在は、長野県松本市の公益財団法人「自然農法国際開発センター」など様々な団体が自然農法の保護と普及に努めており、全国の生産地でも自然農法を取り入れた農業が見直されつつあるようです。

有機農業との違い

自然農法に類似する言葉のひとつに有機農業という言葉があります。

有機農業とは、農林水産省が定義する農法のひとつで、農薬や化学肥料を一定期間使用していない田畑で行われる農業のことを指します。

有機農業は、有機食品を認定する有機JAS法に基づき「有機農産物」や「転換期中有機農産物」「無農薬栽培農産物」「減化学肥料農作物」などを名目に、それぞれ異なった期間や条件が付されています。

現在の法律では、これらの認定を受けた農産物のみに「有機(オーガニックを含む)」という表示が認められています。

自然農法によるお米作り

稲作は、わが国が古来より育んできた日本の文化ともいうべき産業です。

現在は、農薬や化学肥料を用いた慣行栽培が一般的ですが、前時代の農業では、炭(土壌改良)や木酢液(虫よけ)、人糞や家畜の糞尿(栄養分)、木製の除草機(除草)などを用いた栽培が行われていました。

先述しましたが、岡田氏が提唱した自然農法とは、自然界にある現象と仕組みのみを利用して行う農法のことを指します。

しかし、現在の解釈では、自然界にある現象や仕組みだけではなく、前時代に用いられていた「方法」や「道具」を使用するケースもあるようです。

自然農法によるお米作りの例

稲作を無農薬・無肥料で利益を生み出すと仮定した場合、「およそ1町分(10000㎡)以上の田んぼとそれに見合う農業機械が必要になる」と言われています。

慣行栽培では、農薬や化学肥料を用いて除草や病害虫の予防、土壌の栄養分の補給などが行われますが、自然農法では、これら以外の方法で対策を検討する必要があります。

自然農法によるお米作りのポイント

土づくり

お米の自然農法を成功させる最大のポイントが「土づくり」です。

稲刈り後に出る稲わらは、田んぼにガスや有機酸を発生させることから「雑草が生えやすい環境をつくる」と言われています。

雑草が生えにくい環境をつくるためには、翌年の春までにおよそ50%の稲わらを分解する必要があります。

稲刈り後、できるだけ暖かい季節のうちに田んぼを耕して乾かし、さらに春先にもう一度耕すことで分解が促進されるそうです。

稲刈り後の「稲わら」

土壌の地力づくりには水温の管理が有効です。

8℃以下の水は稲の生育を悪化させる恐れがあるため、初期の水は保温状態になるような少し暖かい温度が望ましいと言われています。

出穂期は、17℃以下になると冷害になる恐れがあるため、かけ流し等で水温を調整すると良いでしょう。

育苗・田植え

慣行栽培では、農薬を使用して行う「種もみ」の消毒ですが、自然農法では

「脱穀した種もみを選別機や唐蓑(とうみ)などで選別した後、約60℃のお湯に10分程度浸種して、直ぐに10分間冷水に浸す」

という方法をとる農家さんがいるようです。

これらの作業は、ばか苗病と呼ばれる病気の予防に役立ち、冷水で浸した後は10~15℃に調整されたタンクに10日間ほど浸種して芽出しするそうです。(芽出し機などの機械を使用する農家さんもいます。)

床土には、肥料分が含まれる市販品ではなく、山土など自然にあるもの使用します。「山土に落ち葉を加えて自作した腐葉土」や「良質な無肥料培土を購入して燻炭を1:1の割合に混入したもの」を使用する農家さんもいるようです。

早すぎる田植えは、稲の生育(初期)を悪くするので、「遅植えが可能な中生品種」を選択することも重要なポイントと言えるでしょう。

除草

田んぼの雑草には、「湿性雑草」と「水性雑草」の2分類があり、それぞれに発芽のメカニズムがあります。

「湿性雑草」は、じめじめとした所を好む雑草です。ヒエやイボクサなどが代表的で発芽に酸素を必要とするのが特徴です。「地中の酸素が欠乏すると発芽できなくなる」という特性から一定以上の水深を保つことで対策できるでしょう。

「水性雑草」は、発芽に酸素を必要としない雑草です。コナギやホタルイ、クログワイなどが代表的で、特にコナギは農薬を使用しない「自然農法」の最大の敵と呼ばれています。

慣行栽培では、田植え前や植え付け後の初期・中期・後期とそれぞれのステージに合わせた除草剤が使用されています。

しかし自然農法では、「除草機」という道具を使用して雑草の駆除を行う農家さんが多いようです。除草機は、除草剤の使用以前に用いられていた専用の道具です。

現在は、アルミ製の製品などが3万円前後で販売されているほか、田植え機の改造品やエンジン式の専用機械なども流通しているようです。

殺虫

農薬を使用しない殺虫方法のひとつに、鳥類の一種であるアイガモを利用した「合鴨農法」というものがあります。

「合鴨農法」は、害虫や雑草を餌とするアイガモを田んぼに放つ殺虫方法です。稲穂の成長を促進する効果を持つ中耕作業を行う働きもあります。

農業機械の利用について

稲作は、野菜や果樹などの栽培と比べて農業機械への依存度が高く、また使用する機械の種類も豊富です。

乗用トラクターや耕運機、田植え機、コンバイン、バインダーなどは自然農法においても必須のアイテムであり、稲刈り後は、乾燥機や籾摺り機等も必要になってくるでしょう。

乾燥に関しては、「はざがけ」と呼ばれる自然の力を利用した乾燥法もありますが、自然農法による稲作を業として行う場合「自然界にある現象や仕組み+機械による省力化」と考えた方が現実的だと思います。

「はざがけ」による稲の乾燥

農業機械の購入は多くの資金が必要になりますが、地域内でのシェアリングや請負業者への作業委託など購入以外にも様々な方法がありますので、各々の営農スタイルに合わせたやり方を取り入れてみて下さい。

米袋等への表示について

日本では、一般消費者向けに販売される食品について「食品表示法」の「食品表示基準」に基づき様々な規定を設けています。

農産物などの生産品は、袋やパッケージに名称や原産地を表示する規則になっていますが、お米に関しては「玄米」や「精米」など、より詳しい内容を表示する必要があります。

自然農法で作られたお米については、「食品表示法」のガイドラインに基づく「特別栽培米」という表示を使用する方法や、第三者機関の認証で表示が認められる「有機JASマーク」を使用する方法があります。

自然農法に関する表示については、農林水産省が詳細な内容を公開しておりますので、下記リンクの情報を確認いただければと思います。

特別栽培農産物に係る表示ガイドライン有機農産物の表示概要

まとめ

「自然農法」は、慣行栽培が一般的とされる現代農業において、新たな価値を生み出す大きな可能性を秘めています。

スマート農業という最新の技術やテクノロジーを用いた新しい農業が脚光を浴びていますが、先人たちが育んできた「自然農法」という農業も、現代における新しい農業のカタチと言えるでしょう。

無農薬や減農薬、有機栽培などで生産されたお米や野菜は、一般消費者の関心も高く、環境保全という観点からも、その重要性が見直されつつあります。

お米は、日本農業の基本とも言うべき作物であり、古来からの食文化を支える重要な役割を担います。「お米の自然農法」を検討する際には、ぜひこの記事を参考にしてみて下さい。最後まで読んで下さりありがとうございました。