畑の中でリーフレタスの陰に隠れるウサギと、岩の上に佇むコマドリが描かれた自然風景。中央に「自然栽培と鳥・小動物との共生」、下部に「害獣を味方にする方法と対策実例」という日本語テキストが配置されたアイキャッチ画像。ナチュラルな配色と優しい雰囲気。

「自然栽培で鳥や小動物の被害が止まらない…」そんなお悩みはありませんか?
自然農に取り組む中で、生きものとの距離感に迷う方は少なくありません。
この記事では、自然栽培を実践する農家の実例を交えながら、鳥やモグラなど“害獣”とされる存在との共生の考え方や、畑を守りながら自然とつながるための具体的な工夫を紹介します。
自然とともに育てる農のあり方を見つめ直したい方、家庭菜園でも実践したい方におすすめの内容です。

自然栽培と生きものたちの関係とは

レタス畑に佇むネズミと、石の上にとまるコマドリが共存する自然の風景に、「自然栽培と生きものたちの関係とは」という日本語テキストが中央に配置された画像。ナチュラルな配色で優しい雰囲気を表現。

なぜ鳥や小動物が問題になるのか?

自然栽培を実践していると、多くの人が一度は「鳥や小動物による被害」に悩まされます。特にタネをまいた直後や収穫直前のタイミングで、野鳥に食べられたり、モグラやネズミが根を荒らしたりするケースが多く見られます。

こうした存在は、一般的に「害獣」と呼ばれ、畑を荒らす厄介な相手と捉えられがちです。確かに、せっかく手間ひまかけて育てた作物が食べられてしまえば、落胆も大きいでしょう。しかし、単純に駆除するだけでいいのでしょうか?

実は、鳥や小動物が畑に現れるのは、その環境が豊かである証とも言えます。自然栽培は、農薬や化学肥料を使わず、できる限り自然の力に任せて作物を育てる方法。そのため、農地が「野生動物にとっても心地よい場所」になることは、ある意味で当然なのです。

例えば、収穫直前のトマトを狙うヒヨドリや、土中のミミズを狙うモグラは、畑に「生命の多様性」があることを示しています。言い換えれば、自然栽培の畑は、生態系の一部として機能しはじめているとも言えるのです。

「害獣」と呼ばれる存在の役割を見直す

ここで大切なのは、「敵」として一方的に排除するのではなく、それぞれの生きものが果たしている役割に目を向ける視点です。たとえば、畑の作物をついばむ鳥が、同時に害虫(アブラムシやヨトウムシなど)を食べてくれることもあります。

また、モグラが掘ったトンネルは、水はけの改善や空気の通り道になることもあり、結果として土壌をふかふかに保つ効果があるのです。ネズミの存在も、タネや実を運ぶ“自然の播種者”という一面を持っています。

このように視点を変えれば、これまで「害」とされてきた存在が、実は自然循環を支える一員であることが見えてきます。もちろん被害を防ぐ工夫は必要ですが、完全排除ではなく“距離感”を持って付き合うことが、自然栽培の本質に近いのではないでしょうか。

実際に多くの自然栽培農家が取り入れているのが、「防鳥ネット」や「防獣ネット」などの物理的対策と、「共存」を前提とした考え方の組み合わせです。畑の一部を“共有エリア”とし、あえて少しの作物を鳥に分けることで、それ以上の被害を防ぐ工夫もあります。

さらに、猛禽類(フクロウやトビ)を誘引してネズミを抑制したり、草を適度に残してモグラの動線を把握しやすくするなど、生態系全体のバランスに配慮した栽培スタイルも注目されています。

自然栽培の実践には時間も手間もかかりますが、そこに関わる生きものの存在を“敵”ではなく“共演者”として捉え直すことが、持続可能な農の第一歩です。

 

自然栽培における共生の考え方

畑の中に立つリーフレタスと石の上にとまるコマドリが描かれた自然風景。中央に「自然栽培における共生の考え方」という日本語テキストが配置され、ナチュラルで優しい雰囲気を伝える画像。

「敵」と味方を区別しすぎない自然農の視点

私たちは畑を管理するとき、つい「これは味方」「これは敵」と明確に線引きしたくなります。例えば、野菜を食べる虫や実をついばむ鳥、根を掘るモグラなどは、一般的には「排除すべき対象=害獣・害虫」とみなされがちです。

しかし、自然栽培においては、この“敵と味方”の発想そのものを見直すことが求められます。自然界には、人間の都合だけで動く存在などなく、すべてが相互に影響し合いながらバランスを保っています。

たとえば、アブラムシを食べるテントウムシやカマキリのように、「害虫を食べるから益虫」とされる生きものも、別の作物に被害を与える場合もあります。逆に、野菜をかじる鳥が、同時に害虫の発生を抑えることもあるのです。

こうしたことから、生きものを「一面的な存在」として捉えるのではなく、その場の環境全体との関係で見ていくことが、自然栽培における基本姿勢となります。

もちろん、過度な被害があれば対策は必要ですが、完全排除ではなく“共に生きる”ための工夫を探ることが、自然との関係を長く続けていく鍵となります。

多様性が土と作物を守るという発想

自然栽培では、肥料や農薬を使わないぶん、畑そのものが本来持つ力を引き出すことが求められます。その中で非常に重要になるのが、「生態系の多様性」です。

多様な生きものが共存する畑は、病害虫や天候などへの耐性が高く、回復力もあります。たとえば、特定の害虫が発生しても、それを捕食する天敵がすでにいる環境であれば、大量発生する前に抑えられることがあるのです。

また、地中のミミズや微生物、小動物の活動によって、土壌がよく耕され、水はけや保水性が自然に整うこともあります。こうした“見えない協力者”たちの働きが、結果的に人間の労力を減らしてくれるのです。

以下は、自然栽培における「生物多様性」と「畑への好影響」の関係を簡単にまとめた表です。

多様な生きもの 畑への主な効果
鳥類(ヒヨドリ・スズメなど) 害虫の捕食、タネの散布
モグラ・ネズミ 土壌通気性の改善、有機物の分解
ミミズ・微生物 肥沃な土作り、分解と栄養循環
昆虫類(テントウムシなど) 害虫の自然抑制、受粉サポート

このように、生物の多様性は、畑全体の健康を支える土台になっているのです。私たち人間が介入しすぎず、自然のバランスを尊重しながら畑を管理することで、【自然と協調した栽培】が実現されていきます。

これからの時代、持続可能な農のかたちは「効率」や「排除」ではなく、「共生」や「循環」の視点にシフトしていく必要があるでしょう。自然栽培は、その最前線に立つ実践といえるのです。

 

実践者が行う鳥・小動物との向き合い方

防鳥ネットが張られた畑でレタスが育ち、石のそばにヘビが潜む自然風景。中央に「実践者が行う鳥・小動物との向き合い方」の日本語テキストが配置され、ナチュラルで優しい雰囲気の画像。

防鳥ネット・簡易バリアの活用法

自然栽培では、畑にやってくる鳥や小動物の存在を「排除すべき敵」としてではなく、「共に生きる存在」として捉える姿勢が大切です。ただし、作物を守るためには一定の物理的対策も必要になります。

もっとも基本的な方法が、防鳥ネットや防獣ネットの設置です。これは特に、トマトやトウモロコシ、豆類など、収穫前に狙われやすい作物で効果を発揮します。防鳥ネットは畝ごとに張るだけでなく、全体を囲むトンネル型やドーム型の活用もおすすめです。

また、地面を掘るモグラやネズミに対しては、畑の周囲に「埋設ネット」を設置したり、コンパネ(合板)や石板で地下をバリアするという工夫もあります。完全に排除するのではなく、侵入を抑える工夫という考え方が、自然栽培には適しています。

農家によっては「被害の多い部分だけにネットをかける」という“共存重視”の方法も採用されています。これは「一部は野生動物と共有する」という発想で、結果的に全体の被害を抑える効果も期待されています。

フクロウやヘビなど“捕食者”を味方につける方法

自然界には、鳥や小動物を“管理してくれる存在”がいます。それが、フクロウやヘビ、イタチなどの天敵となる捕食者です。これらを「味方につける」ことで、生態系全体のバランスが取れ、農薬に頼らずに作物を守ることができます。

たとえば、農家の中には「フクロウの巣箱」を設置して、夜間にネズミを狩ってもらう工夫をする人もいます。実際、夜行性のフクロウはネズミ対策に非常に有効で、特に広い圃場ではその効果が大きくなります。

また、ヘビはモグラや小型哺乳類の天敵です。畑にヘビが出ると驚かれることもありますが、過度に追い払わず、周辺に自然環境(石積みや草むら)を残すことで、生態系の中での役割を発揮させることができます。

こうした“自然の力”を活かすことは、農薬の使用を避けたい自然栽培にとって、理想的な手段のひとつです。「怖い=排除すべき」ではなく「怖い=役割がある」という視点で自然を見ると、農との付き合い方も大きく変わってきます。

音・匂い・光など自然に優しい忌避法

物理的に防ぐのが難しい場合には、音・匂い・光といった刺激を使った「忌避(きひ)法」も有効です。たとえばCDをぶら下げて光を反射させたり、風に揺れる銀テープを設置する方法は、昔から知られる鳥避けの定番です。

また、最近では太陽光で充電して夜間に光るLEDセンサーや、動物の嫌う匂いを発する天然素材のスプレーなども販売されています。これらは化学薬品を使用しないため、自然栽培にも適した方法と言えるでしょう。

ただし、こうした忌避法は“慣れ”によって効果が薄れる場合もあります。一つの方法に頼るのではなく、複数の手段を組み合わせたり、定期的に場所やアイテムを変えることがポイントです。

さらに、風鈴や風車、木の枝で作った“鳥の巣”のようなオブジェなど、手作りの道具での対策も一部では人気です。こうした道具は見た目にも楽しく、家庭菜園をより愛着の持てる空間に変えてくれます。

自然栽培においては、「防ぐ」ことだけに集中するのではなく、“関係を築く”という視点が求められます。生きものたちと距離を取りながら共に暮らす工夫が、無農薬でも豊かな収穫を得る鍵になるのです。

 

【実例紹介】自然栽培農家の取り組みと知恵

自然栽培の畑でキャベツを収穫する手と、その周囲にいるスズメやトマト、緑豊かな作物が描かれた風景に、「【実例紹介】自然栽培農家の取り組み」という日本語テキストが中央に配置された、ナチュラルで優しい雰囲気の画像。

長野県の農家・高橋陽介さんに聞いた「共存のコツ」

自然栽培を実践する中で、多くの農家が頭を悩ませるのが鳥や小動物との関係です。しかし、「すべてを排除する」のではなく、「どう付き合うか」を考えることで、むしろ畑のバランスが整うこともあります。

今回お話を伺ったのは、長野県上田市で自然栽培歴10年の高橋陽介さん。標高の高いエリアにあり、山の動物との距離も近い場所で、年間を通してさまざまな小動物や鳥が畑に訪れる環境です。

高橋さんは、最初の数年は被害に悩み、作物を守るために防鳥ネットや獣避け柵を全面的に設置していました。しかし、それだけでは根本的な解決にならず、次第に「敵視」から「観察」へと視点を変えていったといいます。

「よく見ると、鳥たちがただ作物を荒らしているだけじゃなくて、虫も食べていたり、草の種を運んだりしていたんです。それで気づいたんですよね、完全に追い払うより、関係性をつくった方がいいって」

現在高橋さんは、畑の一角を「動物ゾーン」としてあえて無防備にしており、そこに小動物が集中するように仕向けています。トマトやキュウリなどの被害を受けやすい野菜は、ネットと手作りの目隠し柵で守る一方、雑草や豆類は一部“シェア”しているのだそうです。

また、フクロウの巣箱や水場も設置しており、夜間にネズミが減ったことで作物の根の被害も激減。人が「守る」だけでなく、生態系に「任せる」部分をつくることが、高橋さん流の自然栽培スタイルです。

「鳥が増えたら虫が減った」バランス事例

高橋さんの体験でもうひとつ興味深いのは、「鳥が増えると虫が減る」という現象です。これは自然栽培においてよく語られるテーマであり、特に農薬を使わない畑では重要なバランス要素となります。

春先に発生しやすいアブラムシやヨトウムシに対して、スズメやヒヨドリが頻繁にやってくるようになった結果、虫による被害が明らかに減少したとのこと。農薬を使わずにこの結果が出たのは、高橋さん自身も驚きだったそうです。

「もちろん、最初は果実をついばまれたこともありました。でも、それを差し引いても虫害が減って病気も抑えられたので、全体として収量はむしろ安定しました。鳥を敵ではなく“作業員”として見ているくらいです」と笑って話してくれました。

実際、高橋さんの畑では近年、年間を通しての農薬使用量はゼロ。病害虫の発生も大きな問題になることはなく、虫・鳥・人の「三者が支える農」が成り立っているといえます。

こうした事例は、自然栽培に取り組むすべての人にとってヒントとなるでしょう。「被害をゼロにする」のではなく、「受け入れつつ工夫する」姿勢が、持続可能な農のスタイルを支えているのです。

自然と共に生きる農業には、正解もゴールもありません。ただ、高橋さんのように観察し、気づき、工夫を重ねていくことで、自然との付き合い方はどんどん深まっていくはずです。

 

まとめ|自然栽培は“人間だけの農”ではない

広がる畑とキャベツを収穫する手元、スズメやトマトが描かれたやさしいタッチのイラストに、「まとめ|自然栽培は“人間だけの農”ではない」という日本語テキストが右寄せで配置された画像。自然との共生をテーマにした優しい雰囲気の画像。

生態系とともに育てる農の楽しさ

自然栽培の魅力は、単に「無農薬で安心・安全」な作物を育てることだけではありません。その本質は、自然の営みと人の暮らしが共に在ることにあります。土、草、虫、鳥、小動物――すべてが有機的につながる中で育つ作物には、単なる食材を超えた価値が宿ります。

自然栽培では、農家が「育てる側」としてコントロールするのではなく、自然の力を活かし、見守り、支える存在になることが求められます。そこには、ある意味で“人間中心”の農業とは異なる哲学があります。

鳥に果実をついばまれ、モグラに土を掘られることもあるかもしれません。それでも、その土地に多様な生きものが訪れているということは、その畑が“自然の一部”として機能している証とも言えるのです。

実際、鳥の存在によって害虫の発生が抑えられたり、小動物が土を耕してくれたりと、【人間には気づけない形で畑が助けられている】場面も少なくありません。そうした気づきを得るたびに、自然栽培は単なる栽培技術ではなく、ライフスタイルや価値観そのものに深く関わる営みであると感じられるでしょう。

消費者にもできる「共生」の選択

「自然栽培」は、農家だけが関わる特別な農法ではありません。私たち消費者一人ひとりにも、その理念を支える役割があります。例えば、スーパーで野菜を選ぶとき、「虫食いのある葉」や「形の不ぞろいな果実」にも価値を感じてみることは、自然との共生に一歩踏み出す行動のひとつです。

また、産地直送や自然栽培の野菜セットなどを購入することで、自然と向き合う農家を応援することも可能です。環境への配慮や生態系との調和を重視した商品を選ぶことは、買い物を通じた「共生の選択」となります。

さらに、家庭でベランダ菜園を始めてみたり、無農薬の土や種にこだわってみるだけでも、自然栽培の精神を体験することができます。こうした小さな実践が、暮らしの中に“共に育つ喜び”をもたらしてくれます。

自然栽培は、“人が自然を使う農業”から、“自然と共に生きる農”へと視点を変える試みです。そしてその姿勢は、現代の環境課題や暮らしの在り方にも通じるヒントを私たちに与えてくれます。

これからの農は、人間だけのものではありません。土の中の微生物や空を飛ぶ鳥、足元の草花と一緒に育てていくという感覚が、未来の農をより豊かに、そして持続可能にしていくはずです。

出典・参考文献