田んぼの実り始めの稲

「有機栽培って本当に農薬を使わないの?」と疑問に思ったことはありませんか?食の安全に関心が高まる中、有機農業の正しい知識を知りたい方も多いはず。この記事では、有機栽培の定義や特徴、お米の有機栽培の方法について詳しく解説します。有機栽培のメリットや実際の栽培の工夫を知ることで、安全で持続可能な農業への理解が深まります。これから有機栽培に挑戦したい方も、ぜひ参考にしてみてください!

有機栽培(有機農業)とは

農薬や化学肥料をまったく使用しないわけではない

有機栽培と聞くと「農薬や化学肥料をまったく使用しない」という認識をされている人も多いと思いますが、実はそうではありません。

有機栽培とは、農林水産省が定義する農法のひとつで、農薬や化学肥料を一定期間使用していない田畑で行われる農業のことを指します。

有機栽培のポイントは、この「一定期間使用していない」という部分で、「有機農産物」や「転換期中有機農産物」「無農薬栽培農産物」「減農薬・減化学肥料農作物」等を名目に、それぞれの条件が付されています。

現在の法律では、これらの認定を受けた農産物のみが「有機(オーガニックを含む)という表示をして良い規則になっています。

有機農産物

農薬や化学肥料、除草剤等を2年以上前から使用していない田畑で作られた農作物のことを指します。(多年生作物の場合は最初の収穫の3年以上前)

転換期中有機農産物

農薬や化学肥料、除草剤等を3年未満6ヶ月以上使用していない田畑で作られた農作物のことを指します。

無農薬栽培農産物

農薬や化学肥料等の内、農薬のみを使用していない田畑で作られた農作物のことを指します。

減農薬・減化学肥料農作物

農薬や化学肥料を通常の半分以下に減らして作られた農作物のことを指します。(有機栽培に適用される認証制度は受けない)

有機栽培のメリット

有機栽培のメリットは、農薬や化学肥料の影響が少ない農作物を生産できることにあります。

冒頭でも述べましたが、昨今の多様化する消費者ニーズは、食への安全意識の高まりから「農薬や化学肥料を使用していない食品」を求める傾向にあります。

有機栽培によって作られた農産物は、一般消費者のニーズも高いためブランディングとしての効果を見込めるほか、農薬や肥料の購入代金など農業者の金銭的負担も軽減する可能性も秘めています。

自然農法との違い

自然農法とは

自然農法は、造園家や書家、画家、歌人など様々な顔を持つ岡田茂吉氏(1882~1955)が提唱した農作物の栽培方法です。

岡田氏の考え方によれば、自然農法とは「落ち葉など自然界にある現象と仕組みを再現して行う農法」で、農薬や化学肥料、糞などの有機物等を一切使用しないのが特徴だそうです。

有機栽培と自然農法の比較

有機栽培と自然農法の大きな違いは、「農薬や化学肥料の使用に関する考え方の違い」と「法的根拠」にあります。

先述しましたが、自然農法は農薬や化学肥料、有機物等を一切使用しない栽培方法です。

しかし、有機栽培では、法律の根拠に基づき、各名目の条件さえクリアしていれば、農薬や化学肥料の使用が認められます。

慣行栽培との違い

慣行栽培とは

慣行栽培とは、現代において一般的に行われる栽培方法のことで、農薬や化学肥料、農業機械などを用いた農業を指します。

農林水産省は、慣行的に使用されている農薬や肥料について、地域ごとに「地域慣行栽培基準」を定め、農薬の使用時期や回数、化学肥料に含まれる窒素成分等の量などを規定しています。これにより、各地域の気候や土壌条件に適した栽培方法が維持され、生産の安定が図られています。

有機栽培と慣行栽培の比較

有機栽培と慣行栽培の最も大きな違いは、「生産の安定化」と「品質の維持・向上」の点にあります。

現代の農産物市場では、消費者のニーズとして「十分な物量」と「キレイな見た目」が重要視されます。これらの要素を満たすため、全国の生産地では農薬や化学肥料を使用し、病害虫対策や品質管理を行っています。一方、有機栽培では農薬や化学肥料の使用を極力抑え、自然の力を活かした生産方法を採用する必要があります。

お米の有機栽培について

農林水産省が令和5年度に行った調査によると、日本のお米の総生産量はおよそ661万トンで、新潟県、秋田県、北海道が主要な生産地となっています。

お米の生産ランキング(上位3位)

順位 都道府県 生産量 (トン) 構成比 (%)
1位 新潟県 591,700 7.7
2位 北海道 540,200 7.3
3位 秋田県 458,200 6.1

※資料:農林水産省「作物統計調査(確定値)」(令和6年2月29日)

これらの地域では、「生産の安定化」と「品質の維持・向上」が求められるため、慣行栽培が主流とされています。しかし、一部の農家では有機栽培にも取り組んでおり、その方法や課題についても注目が集まっています。

では、稲作を有機栽培で行う場合、どのような点に注意が必要なのでしょうか?

有機栽培による稲作の方法

農薬の使用について

お米の慣行栽培では、主に以下の3種類の農薬が使用されます。

  • 除草剤(雑草を防ぐ)
  • 殺虫剤(害虫から守る)
  • 殺菌剤(病気を防ぐ)

一般的な稲作では、種もみの消毒や田植え前後の除草、病害虫対策として農薬が用いられています

しかし、有機栽培では農薬を使用せずに対策を行う必要があるため、異なる方法で病害虫を防ぐ工夫が求められます。

農薬以外による病害虫の対策を考える

1. 合鴨農法(アイガモ農法)

お米の無農薬栽培の方法としてよく知られているのが、「合鴨農法」です。

この農法では、水田にアイガモを放つことで、以下の効果を得られます。

✅ 田んぼの雑草や害虫をアイガモが食べてくれる
✅ アイガモの糞が天然の肥料となり、土壌が豊かになる
✅ アイガモが水田を動き回ることで、稲が丈夫に育つ

アイガモは稲の茎をつつく習性があり、これによって株が増えやすくなるという利点もあります。


2. 手作業による害虫駆除

有機栽培では、人の手による害虫対策が欠かせません。

例えば、カメムシという害虫は、お米に黒い斑点をもたらすことで知られています。有機栽培では、【※赤】カメムシの発生を防ぐため、手作業で捕獲したり、植物由来の忌避剤を使用する【※赤】などの対策が取られます。

カメムシ

ある地方の農家では、田んぼへの侵入を防ぐため、周辺の畔や農道にある程度の雑草を残して、田んぼ以外の場所に害虫が生息しやすい環境をつくります

次に、除草についてですが、田んぼの雑草には、「湿性雑草」と「水性雑草」の2つの種類があり、それぞれに発芽のメカニズムがあります。

湿性雑草とは、ヒエやイボクサなどジメジメした所を好む雑草で、発芽に酸素を必要とするのが特徴です。「地中の酸素が欠乏すると発芽できなくなる」という特性から一定以上の水深を保つことで対策できます。

水性雑草とは、コナギやホタルイ、クログワイなど発芽に酸素を必要としない雑草のことを指します。特にコナギは有機栽培を行う上での最大の難敵とされています。

慣行栽培では、初期・中期・後期それぞれのステージに応じた除草剤が使用されますが、有機栽培では人の手による除草作業がメインとされています。

それに使用される代表的な道具が「除草機」という農具です。アルミ製の手動品ほか、田植え機の改造品やエンジン式の専用機械などが発売されています。

化学肥料の使用について

お米の慣行栽培では、土づくりの段階から窒素・リン酸・加里がバランス良く含まれた化学肥料が使用されています。

また、栽培中期には不足する栄養分を補うために、窒素分と加里分のみを含んだ追肥も行われています。

しかし、有機栽培では、これらを使用することなく、お米が十分に育つ栄養分を確保する必要が出てきます。

有機肥料の活用を考える

お米の有機栽培の土壌づくりにおいて、重要になるのが「有機肥料」の活用です。有機肥料とは、骨粉や油粕、魚粉等のみで構成された肥料のことで、「化学成分を含まない」ということが特徴です。

有機栽培の条件はあくまで「化学肥料を使用しない」ということにありますので、これらの肥料を上手に活用して土壌づくりを行っていただければと思います。

米袋等への表示について

有機栽培で生産したお米を「有機」と表示して出荷する場合、以下の注意をする必要があります。

お米の有機表示の注意点

  1. 米袋にある等級検査結果の欄を使用しない。
  2. 転換期中有機栽培米は、転換期中であることが分かるように表示する。
  3. 消費者への直接販売時には「一括表示」にて名称欄に「有機」と表示する。

「お米の有機表示」の詳細は、こちらのリンク(https://www.infrc.or.jp/organic-certificatio/jas_worker/504/)で詳しく紹介されています。

また、「一括表示」の詳細については、こちら(https://www.infrc.or.jp/organic-certificatio/jas_worker/511/)をご参照下さい。

まとめ

冒頭でも述べましたが、有機栽培は「農薬や化学肥料を使用しない栽培法」として、一般的にもその認知が広く、消費者のニーズも高いと言われています。

さらに、同様の栽培方法である「自然農法」と比較した場合の難易度も低いため、新規就農者や慣行栽培のみを行ってきた生産者でも取り組みやすい内容になっています。

お米の有機栽培にチャレンジする際には、ぜひこの記事を参考にしてみて下さい。最後まで読んで下さりありがとうございました。