現代農業は、農作物の安定的生産と品質向上を目的に、農薬や化学肥料、農業機械などを用いた「慣行栽培」が主流となっています。
その中でも稲作は、私たち日本人の食文化を支える大切な農作物であり、現代農業の礎とも言うべき産業です。
この記事では、「稲作における慣行栽培」の概要について紹介するとともに、「コメ栽培に係る一年間の流れ」について解説していきます。
慣行栽培とは?
「慣行栽培」とは、現代において普通・一般的に行われる栽培方法のことで、農薬や化学肥料、農業機械などを用いた農業のことを指します。
農林水産省は、慣行的に使用されている農薬や肥料について、農薬の使用時期や回数、化学肥料に含まれる窒素成分等の量など、基準となる指標(地域慣行栽培基準)を地域ごとに定めています。
稲作における慣行栽培
「稲作における慣行栽培」とは、全国各地で一般的に行われているコメ栽培のことを指します。
現代の稲作は、農薬を使用した雑草の駆除や病害虫の予防、肥料を用いた土壌づくりなど、農薬や化学肥料、農業機械などを使用した栽培が一般的とされています。
農業機械は、稲作全体の作業を省力化するためのもので、草刈り機や乗用トラクター、田植え機、コンバイン、乾燥機、籾摺り機などが使われます。
稲作の慣行栽培に必要なもの
農薬
稲作に使用される農薬の種類は、除草剤・殺虫剤・殺菌剤の3つです。詳細は以下の通りです。
除草剤
稲作に使用される除草剤には、田植え前に使用して雑草の発生を抑制するものや、田植え後に使用して雑草を退治するものなど様々な種類があります。
田植え後に使用するものについては、初期・中期・後期それぞれのステージに適した除草剤が発売されています。
初期剤は(田植え後~5日目ごろ)まで、中期剤は(田植え後~25日目ごろまで)、後期剤は(田植え後~45日目から60日目ごろまで)となります。
また、初期剤と中期剤の特性を合わせた初中期一発剤(田植え後~14日目ごろまで使用可能)という除草剤もあります。
粒剤や液剤、フロアブル剤など形質も様々で、ノビエやアワ、クログワイなどを対象に、状況に応じた使い分けがなされています。
殺虫剤
殺虫剤は、イネ科の天敵とされるウンカ類やヨトウムシ、カメムシ、ハムシなどを退治する農薬です。
稲の害虫は、6月上旬ごろから発生すると言われ、稲刈り直前(8月~10月)には、イナゴやカメムシなどが多く発生します。
殺虫剤にも、除草剤と同様、粒剤や液剤、粉剤など様々な形質があります。
殺菌剤
殺菌剤は、イネ科の病気であるバカ苗病やいもち病、紋枯れ病、ごま葉枯れ病などの予防や治療を行う農薬です。
バカ苗病は、イネの育苗期に発生しやすい病気で、不発芽や立ち枯れを招くとされています。この病気は、種もみ専用の農薬を使用した「種もみ消毒」によって予防できます。
いもち病は、イネ科の病害の中でも特に大きな被害をもたらす病気です。
発生する部位によって呼び方が異なり、葉に症状が現れたものを「葉いもち」と呼び、穂に症状が現れたものを「穂いもち」と呼びます。
いもち病の発生は、「その年の気候が大きく関係する」と言われ、原因には「冷夏・多雨・日照不足」の3つが考えられるそうです。
化学肥料
田んぼの土壌づくりには、農作物の生育に必要な「窒素・リン酸・加里」を含む化成肥料が用いられます。
稲作では、専用の化成肥料のほか、農作物全般に使用できるオールマイティな化成肥料が使用されます。
不足した栄養分を補う追肥には、窒素分と加里分のみを含んだ化成肥料を使用します。
農業機械
農業機械は、省力化が求められる現代農業において、農業者の負担を軽減するための重要なアイテムとされています。
乗用トラクターや田植え機、コンバイン、乾燥機や籾摺り機などは、現代の稲作を支える大切なツールであり、農業者の肉体的負担や作業時間の軽減に役立ちます。
農業機械の購入には、多くの資金が必要になりますが、地域内でのシェアリングや請負業者等への作業依頼、助成金の活用など様々な方法がありますので、それぞれの農業経営に即した検討を進めてみれば良いと思います。
慣行栽培における稲作の流れ
日本の稲作は、春・夏・秋・冬の恵みによって営まれています。
各シーズンに行われる作業については、地域によって若干のズレはあるものの、概ねは下記の流れが普通だそうです。
春(2月~5月)
- 種もみの準備
- 種もみの消毒(専用の農薬を使用)
- 種もみの芽出し(芽出し機などの機械を使用)
- 育苗箱への播種(播種機などの機械を使用)
- ビニールハウス内での育苗
- 土壌づくり(化成肥料の散布※専用の機械を使用)
- 代かき・クロづくり(トラクターに接続する専用の機械を使用)
- 田植え(田植え機を使用)
- 除草剤による作業(背負い式やラジコンタイプ、乗用型の散布機を使用)
夏(6月~8月)
- 除草剤による作業(背負い式やラジコンタイプ、乗用型の散布機を使用)
- 畦畔の草刈(刈り払い機や専用の草刈り機を使用)
- 殺虫・殺菌剤の散布(背負い式やラジコンタイプ、乗用型の散布機を使用)
- 稲刈り※早生品種のみ 8月下旬ごろ(コンバインを使用)
秋(9月~11月)
- 稲刈り(コンバインを使用)
- 乾燥(乾燥機を使用)
- 籾摺り(籾摺り機を使用)
- 袋詰め(30㎏詰めの紙袋ほか1t詰めのフレコンパックなどを使用)
- 等級検査(JA等の検査機関にて)
- 出荷
- 稲わらの処理(トラクターによる耕耘作業など)
冬(12月~2月)
- 土壌づくり(トラクターを使用。稲わらの分解促進・アルカリ分の補給等)
- 種もみの準備
お米の等級について
収穫した玄米は、登録検査機関が行う検査によって等級が決定されます。
玄米には、「水稲うるち玄米」、「水稲もち玄米」、「陸稲うるち玄米及び陸稲もち玄米」、「醸造用玄米」、「飼料用玄米」の5つの検査規格があります。
検査では、整粒や形質、水分、被害粒、死米、着色粒、異種、異物などを項目に、一等級から三等級までの品位が決定されます。
農林水産省では、一般に流通するお米である「水稲うるち玄米」の一等級の品位について、「整粒70%・水分15%・死米7%・着色粒0.1%・異種穀粒0.4%・異物0.2%」と定めています。
米袋の表示について
等級検査を終えた玄米は、精米作業を経た後、名称や内容量などJAS法に基づく表示基準をクリアした米袋等の梱包資材によって出荷されます。
米袋等の梱包資材には、「名称」や「内容量」のほか、「産地」「品種」「産年」「使用割合」「精米年月日」「販売者」等の表示が義務付けられています。
玄米の状態で出荷する際には、「精米年月日」を「調整年月日」に変更して記載するそうです。
お米の販売について
生産したお米の販売については、概ね以下の販路を検討すると良いでしょう。
- JAへの一括出荷
- 直売所等での直接販売
- 食品小売業などの米穀販売業者への出荷
- 外食産業などを展開する企業との直接取引
- 六次産業化へ向けた加工食品の製造など
JAへの一括出荷
「JAへの一括出荷」は、現代の稲作で行われる通常・一般的な商流の流れです。JAグループでは、生産されたイネの集荷のみならず、乾燥や保管など農業者の負担を軽減する様々な取り組みを行っています。
直売所等での直接販売
「直売所等での直接販売」は、農業者自身が販売するお米の価格を自分で設定できる点がメリットと言えます。
※お米の価格については、市場原理による原則自由化がなされていますが、「コメ価格センター」での入札価格を基準とするケースが多いようです。
食品小売業などの米穀販売業者等への出荷
「食品小売業などの米穀販売業者等への出荷」は、競争原理が働く民間業者との取引になることから、買取価格の希望などが優位に働く可能性を秘めています。
外食産業などを展開する企業との直接取引
「外食産業などを展開する企業との直接取引」については、「食品小売業などの米穀販売業者等への出荷」と同様、民間業者との取引になることから、買取価格の希望などが優位に働く可能性を秘めているほか、年間契約など安定した受注も見込むことができます。
六次産業化へ向けた加工食品の製造など
「六次産業化へ向けた加工食品の製造など」は、お米そのものを出荷する従来の流れを、加工や流通、販売までを一貫して行う流れに昇華させたものです。
お米の六次産業化ついては、米粉を利用したパンやお菓子などが広く認知されています。
まとめ
日本の農業生産の内、稲作が占める割合は全体の21.9%で、その内、稲作を主業とする農家の割合が約18.7%、準主業が27.9%、副業的農家が53.4%と言われています。
稲作は、日本農業の根幹とも言うべき大切な産業です。
「慣行栽培による稲作」は、農業者の負担軽減のみならず世界でも有数の高品質なお米を生み出しています。
稲作を始める際には、ぜひこの記事を参考にいたただき、就農を検討して下さればと思います。最後まで読んで下さりありがとうございました。