トマト

日本の野菜生産は、農薬や化学肥料を用いた慣行栽培と呼ばれる栽培方法によって支えられていると言われています。

慣行栽培とは、全国で普通・一般的に行われている農業のことで、農作物の安定生産と品質の確保を目的としています。

しかし、最近では「農薬や化学肥料を使用しない農作物」の消費者ニーズから、有機栽培や自然栽培などの生産方法に取り組む農家さんが増えてきているようです。

この記事では、野菜の有機栽培の概要について解説するとともに、有機野菜の栽培方法について紹介していきたいと思います。

野菜の有機栽培とは

農林水産省では、有機農産物の日本農林規格として、有機農産物の生産方法の基準範囲と名称の表示方法を以下のように規定しています。

生産方法の基準範囲

  • 圃場、栽培場、採取場
  • 圃場に使用する種子又は苗、種菌等
  • 圃場における肥培管理 
  • 圃場又は栽培場における栽培管理
  • 圃場又は栽培場における有害動植物の防除
  • 一般管理、育苗管理
  • 収穫・輸送・選別・調製・洗浄・貯蔵・包装・その他の収穫以後の工程に係る管理

名称の表示方法

  • 「有機農産物」
  • 「有機栽培農産物」
  • 「有機○○」
  • 「オーガニック○○」

※「○○」には、その一般的な農産物の名称を記載する。

生産方法のポイント

生産方法のポイントには、播種・植付け前2年以上および栽培中に原則として化学的肥料及び農薬は使用しないこと(多年生作物の場合は収穫前3年以上)や、堆肥等による土づくり、 遺伝子組換え種苗の使用不可等を挙げています。

有機栽培のメリット

有機栽培のメリットは、農薬や化学肥料の影響が少ない農作物を生産できることにあります。

冒頭でも述べましたが、昨今の多様化する消費者ニーズは、食への安全意識の高まりから「農薬や化学肥料を使用していない食品」を求める傾向にあります。

有機栽培によって作られた農産物は、一般消費者のニーズからブランディングとしての効果を見込めるほか、農薬や肥料の購入代金など農業者の金銭的負担も軽減する可能性も秘めています。

野菜の有機栽培について

野菜の有機栽培は、慣行栽培と異なり農薬や化学肥料を使用できません。野菜の有機栽培を成功させるためには、これらを使用せずに対策を講じる必要があります。

ポイントを「土壌づくり」「雑草対策」「病害虫対策」の3つの分け、まとめてみましたので、ひとつずつ見ていきましょう。

野菜の有機栽培のポイント

土壌づくり

ある地方の農家さんは、有機栽培での土壌づくりのポイントとして、苦土石灰という土壌改良材を使用することを挙げています。

苦土石灰とは、自然界に存在するドロマイト原石という鉱物を粉砕したもので、ホームセンターなどでも販売されています。

また、有機栽培による土壌づくりの方法として、通常の農業では必ず行うとされる除草作業を一切行わない農家さんもいます。

これは、有機栽培ならではの発想で、「雑草や土の中に生息する微生物等の力を利用する」という考えによるものです。

他にも、腐葉土という落葉が混入された市販品の土を使用する農家さんや、米ぬか、油粕、魚粉、骨粉等を使用して土壌づくりを行う農家さんもいます。

雑草対策

除草作業は、農作物の生長に係わる栄養分を確保するための作業です。

野菜の有機栽培では、除草剤の使用ができないため、人力もしくは機械による除草作業がメインになってきます。

農作物の畝間に生える雑草については、管理機と呼ばれる小型の耕耘機を用いて対処します。

管理機は、耕耘幅30cm~60cm位の小型の農業機械で、畝間の除草を目的とした中耕作業専用の機械です。

農作物の畝間を走らせ土を耕しながら雑草を退治します。

植え付け前の圃場については、ロータリー付きのトラクターや耕耘機等を使用して対処すると良いでしょう。

その他、栽培中の雑草については、人の手によるこまめな草むしり作業(通称テトール)が重要になってきます。

病害虫対策

野菜の有機栽培における最大の課題が病害虫対策です。

一般的には、トンネル栽培などで使用する防虫用のネットやシートを利用した対策や殺虫および菌の増殖を抑える効果があるという木酢液を使用した対策が有名ですが、全国には生活の中にある様々なものを活用して対策をおこないます。

豆乳

「豆乳」に含まれる大豆レシチンという成分は、農作物の病気に対する抵抗性を誘導する働きがあります。有機JAS認証を取得した豆乳を2000倍~5000倍に希釈して使用します。

お酢と焼酎

「お酢」には、農作物の栄養分の代謝を高める働きがあり、また病気の発生を招くと言われる葉面のpH値を下げる効果が期待できます。

しかし、お酢には作物の生育そのものも抑制してしまう特性があるため「焼酎」と同量で混ぜたものを300倍~500倍に希釈して使用します。

天然塩

「天然塩」は、ナスやキュウリなどが罹るうどんこ病の対策に使用できます。天然塩36gを1リットルの水に混ぜ(海水とほぼ同様の濃度)、それを2000倍~3000倍に希釈して使用します。

ただし、倍率を間違えると作物を枯らしてしまう恐れがあるため、使用する際には十分に注意の上、自己責任のもと慎重に行ってください。

米ぬかと納豆

うどんこ病等の病気や害虫対策に有効な対策が「米ぬかと納豆」です。

米ぬかを9リットルの蓋付きのバケツに入れ(満タン)、そこに納豆(1/4パック)を加えます。そのまま日陰の暖かいところに置いておくと、バケツ全体から汗が出はじめます。3日~4日待ち、表面の中心が沈んできたら使用できます。

「紙」は害虫の習性を利用した対策法です。アブラナ科の作物に寄生するヨトウムシは、紙の下に集まる習性があるそうです。畑の通路に紙を置くのみで対策を講じることができます。

アルミシート

小松菜などに寄生するナモグリバエ等の対策に使用できるのが「アルミシート」です。ナモグリバエは光に弱いという特性から反射される光を嫌う傾向にあります。アブラムシやウリハムシにも効果があるようです。

粘着テープ

害虫のトラップ(罠)として使用できるのが「粘着テープ」です。サランラップ等の芯に粘着テープをらせん状に巻きつけて使用します。レタスや小松菜などの畔際に設置してナモグリバエ等を捕獲します。

有機栽培の出荷について

野菜の出荷は、主に卸売市場を利用した流通を一般的としています。

しかし、有機野菜に関しては、卸売市場を利用した流通よりも農業協同組合等の生産者グループと消費者グループが主体となって取り組む「産消提携」と呼ばれる卸売市場外での流通方式や「農協での直販」および「産直」等の方式をとる農家さんが多いです。

しかし、最近では、消費者との結びつきを強めるため、農産物専門のECサイトやホームページ等を活用した販路を築く農家さんも少なくないようです。

有機野菜を出荷する際には、これらを活用した流通を視野に入れた検討をしてみてはいかがでしょうか。

自然栽培との違いについて

自然栽培は、造園家や書家、画家、歌人など様々な顔を持つ岡田茂吉氏(1882~1955)が提唱した農作物の栽培方法です。

岡田氏の考え方によれば、自然農法とは「落ち葉など自然界にある現象と仕組みを再現して行う農法」で、農薬や化学肥料、糞などの有機物等を一切使用しないのが特徴です。

有機栽培と自然農法の大きな違いは、「表示への規制」と「法的根拠」にあります。

有機栽培では、法律の根拠に基づき、「有機」または「オーガニック」という表示が認められています。

類似する言葉に「無農薬」という表現がありますが、近年は残留農薬等の問題から、この表現自体をNGとする規制も設けられています。そのため「栽培期間農薬不使用」といった表記が一般的です。

農業機械の利用について

有機栽培は、あくまで農薬や化学肥料の使用への規制を設けたものですので、農業機械の利用は基本的にOKです。

農業機械は、農業生産の効率化と省力化に向けた重要アイテムですので、ぜひご活用いただければと思います。購入以外にもレンタルやリース方式によるサービスがあります。

まとめ

野菜の有機栽培と聞くと、難しく感じる人も多いかと思いますが、十分にチャレンジできる内容となっています。今回紹介した技術やノウハウは、有機栽培に取り組む全国の農家さんが実践して成果を挙げた実績のある内容です。

巷には、今回紹介した技術やノウハウ以外にも、先駆者によるさまざまな取り組みが情報として公開されています。

この記事を参考に、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか?最後まで読んで下さりありがとうございました。